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LTVとCACの計算方法|ユニットエコノミクスの設計と改善の実務

目次

LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)は、「顧客1人の獲得が投資として成立しているか」を判定するユニットエコノミクスの中核指標です。 事業全体の損益より先に、顧客1単位の採算が成立していなければ、その事業は拡大するほど赤字が膨らみます。この記事では、正確な計算方法と改善のレバーを整理します。

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LTVの計算:売上ではなく粗利で

LTV = 顧客平均の月間粗利 × 平均継続月数

2つの注意点があります。

  1. 粗利で計算する:売上ベースのLTVは採算判定に使えません。月額1万円でも原価・提供コストで粗利率60%なら、LTVの分子は6,000円です
  2. 平均継続月数はチャーンから推定する:平均継続月数 ≒ 1 ÷ 月次チャーンレート。月次解約率2%なら約50か月、5%なら20か月です

数値例:月額1万円・粗利率60%・月次チャーン2.5%(平均継続40か月) LTV = 6,000円 × 40か月 = 24万円

チャーンのわずかな差がLTVを大きく動かします。この構造が、カスタマーサクセスへの投資が「コストではなく収益施策」である理由です。

単価指標(客単価・ARPU)との違い

LTVは「顧客が生涯で生む粗利」ですが、実務では期間を区切った単価指標と混同されがちです。

指標 計算 見ているもの
客単価(AOV) 売上 ÷ 注文件数 1回の注文の大きさ
ARPU 期間中の売上 ÷ ユーザー数 1人あたりの期間売上
LTV 月間粗利 × 平均継続月数 生涯で積み上がる粗利

都度購入型では客単価、月額課金型ではARPUが単価の主指標になり、そこに継続月数と粗利率を掛けたものがLTVです。単価指標は売上ベース、LTVは粗利ベースで見るのが実務の使い分けで、ここを揃えずに比較すると採算判定を誤ります。

CACの計算:営業コストまで含める

CAC = (マーケティング費用 + 営業人件費等の獲得関連費用)÷ 新規獲得顧客数

広告費だけで計算したCACは過小評価です。広告費・制作費・イベント費に加え、マーケ・インサイドセールス・営業といった獲得に関わる人件費まで含めるのが正しい定義です。

数値例:月間のマーケ費300万円+獲得関連人件費300万円で、新規顧客75件 CAC = 600万円 ÷ 75 = 8万円

顧客1人の採算:CAC回収からLTVまで 8万 16万 24万 0 CAC 8万円 回収 約13か月 LTV 24万円 LTV/CAC = 3.0倍 健全ラインの3倍以上を満たす 0 10か月 20か月 30か月 40か月 継続期間(平均40か月)
本文の例(月間粗利6,000円・平均継続40か月・CAC8万円)。青い線が累計粗利。CACを回収した後の網掛けが投資の利益

判定:LTV/CAC比率とCAC回収期間

指標 計算 目安
LTV/CAC比率 LTV ÷ CAC 3倍以上が健全ライン
CAC回収期間 CAC ÷ 月間粗利 12か月以内が目安

先の数値例では、LTV 24万円 ÷ CAC 8万円 = 3.0倍(健全ライン上)、回収期間 = 8万円 ÷ 6,000円 ≒ 13.3か月(やや長い)となります。

2つの指標は役割が違います。比率は「最終的に儲かるか」、回収期間は「資金がどれだけ寝るか」です。

比率が良くても回収に24か月かかるなら、成長を速めるほど運転資金が必要になります。「成長速度は回収期間に制約される」。この理解が投資判断の土台です。

比率の解釈

  • 1倍未満:獲得するほど赤字。獲得を止めて構造を直す
  • 1〜3倍:粗利・継続・CACのどこかに改善が必要
  • 3〜5倍:健全。再現性を確認しながら投資拡大
  • 5倍超:過小投資の可能性。獲得を増やして成長を取りにいく余地

5倍超を「優秀」で終わらせないことが重要です。ユニットエコノミクスが強いのに成長が遅いのは、市場を競合に譲っているのと同じです。

LTVを高める3つのレバー

  1. チャーンを下げる:最も効果が大きいレバー。オンボーディングの改善と解約予兆の検知が実務の中心(カスタマーサクセスの設計)
  2. 顧客単価を上げる:アップセル・クロスセル、値引き規律の徹底(価格交渉/値引きの損益影響)
  3. 粗利率を上げる:提供コストの自動化・効率化(ROIの試算)

CACを下げる3つのレバー

  1. 転換率の改善:同じ費用で獲得数を増やす。広告のCTVR改善、営業の受注率改善はいずれもCACの分母を増やす活動です
  2. チャネルミックスの最適化:チャネル別にCACを分解し、高CACチャネルから低CACチャネルへ予算を移す。中長期ではストック型施策への投資が構造的にCACを下げます
  3. 紹介・既存顧客経由の獲得:紹介経由のCACは通常最も低く、受注率も高い。成果を出した顧客からの紹介の仕組み化は、最も割の良い獲得投資です

セグメント別に分解する:平均値の罠

全体のLTV/CACが健全でも、内訳では「大企業セグメントは6倍、個人事業主セグメントは0.8倍」のような偏りが常にあります。セグメント別・チャネル別に分解して初めて、投資判断に使える解像度になります。赤字セグメントの獲得を止めるだけで、全体の数値が改善することは珍しくありません(ターゲット設計/ABMの考え方)。

よくある失敗

  • 売上ベースのLTV:粗利を無視すると、拡大するほど赤字の構造を「健全」と誤認する
  • 人件費抜きのCAC:広告費だけのCACは実態の半分ということも珍しくない
  • 平均値だけで判断:セグメント間の偏りが見えず、赤字獲得を続けてしまう
  • LTVの過大な仮定:創業初期はチャーンの実績が薄く、LTVを楽観計算しがち。保守的な値で判定する

まとめ

  • LTVは粗利×継続月数、CACは人件費まで含めた獲得費用で計算する
  • 判定はLTV/CAC比率(3倍以上)と回収期間(12か月以内)のセットで
  • LTVのレバーはチャーン・単価・粗利率、CACのレバーは転換率・チャネル・紹介
  • 必ずセグメント別に分解する。平均値は意思決定に使えない

事業タイプ別の指標構造はSaaS営業、獲得側の設計はリード獲得を参照してください。

よくある質問

LTVはどうやって計算しますか?

基本式は「顧客平均の月間粗利 × 平均継続月数」です。売上ではなく粗利で計算する点が重要で、平均継続月数はチャーンレートの逆数(1÷月次解約率)で推定できます。月次解約率2%なら平均継続は約50か月です。

LTV/CAC比率はどのくらいが健全ですか?

3倍以上が一般的な健全ラインです。1倍未満は獲得するほど赤字、1〜3倍は改善が必要、3〜5倍が健全、それを大きく超える場合は獲得投資を増やして成長を加速する余地があると解釈します。

CAC回収期間とは何ですか?

顧客獲得コストを月間粗利で回収するのにかかる月数(CAC÷月間粗利)です。12か月以内が一般的な目安で、回収期間が長いほど成長時の資金繰り負担が重くなります。LTV/CAC比率と合わせて見るべき指標です。