RACI(責任分担マトリクス)とは?
RACI(レイシー)とは、プロジェクトのタスクごとに「誰が実行し(R)、誰が最終責任を持ち(A)、誰に相談し(C)、誰に共有するか(I)」を一覧表で明確にする責任分担の手法のこと。関係者が多いプロジェクトの「これ、誰がやるんだっけ?」をなくします。
実務での使い方
プロジェクトの遅延の多くは、技術ではなく「タスクの持ち主が曖昧なまま進むこと」から生まれます。全員が「誰かがやると思っていた」タスク、逆に複数部門が別々に進めて衝突するタスク——RACI表はこれをキックオフ時点で一枚の表にして潰す道具です。
運用の絶対原則は「A(最終責任者)は1タスクにつき1人」です。Aが2人いるタスクは、意思決定のたびに調整が発生して止まります。逆にAが誰もいないタスクは、問題が起きたときに誰も引き取りません。表を作る価値の半分は、この2種類の欠陥タスクを事前に発見することにあります。
RACIの4つの役割の意味と読み方
R(Responsible)は実行担当——実際に手を動かしてタスクを完了させる人で、1人以上必要です。A(Accountable)は説明責任者——成果の最終責任を持ち、完了を承認する人で、必ず1人だけ置きます。
C(Consulted)は相談先——着手前や実行中に意見を求めるべき人で、双方向のやり取りが発生します。I(Informed)は報告先——決定や完了を共有しておく人で、一方向の連絡で足ります。CとIの区別は「その人の入力なしに進めてよいか」で判断します。
日本の組織では、Aを「承認者・決裁者」、Rを「主担当」、Cを「事前に話を通す人」、Iを「CCに入れる人」と読み替えると、稟議・根回しの慣行とそのまま対応して運用しやすくなります。
RACIの4役割。「Aは1タスク1人」が絶対原則で、A不在・A複数のタスクが遅延の温床になる。
RACI表の作り方:5ステップ
手順は、①タスクを洗い出す(WBSがあればその主要タスクをそのまま使う)②関係者・役割を列に並べる(個人名でも部門名でもよいが、5〜7列程度に絞る)③各タスクにまずAを1人決める④R・C・Iを埋める⑤欠陥チェック(A不在・A複数・R不在のタスクがないか)、の5ステップです。
②のコツは、列を増やしすぎないことです。関係者を全員並べると、ほとんどのセルがIで埋まった「全員に共有」という無意味な表になります。意思決定と実行に関わる役割だけを列にし、単なる周知先は表の外の配布リストで扱います。
完成した表はキックオフで関係者と読み合わせ、全員の合意を取ってから配布します。作った本人だけが知っている表は機能しません。当サイトのRACI表作成ツールでは、プロジェクトの種類別テンプレートから表を組み立てて、欠陥チェックまで自動で行えます。
RACIのよくある失敗
典型的な失敗は4つあります。①Cが多すぎる——「一応聞いておこう」を全部Cにすると、タスクごとに会議が必要になり表が遅延装置になります。Cは「その人の入力なしに進められない人」だけに絞ります。
②粒度が細かすぎる——作業手順レベルまでタスクを分けると、表が数百行になって誰も見なくなります。RACIは「責任の変わり目」の粒度(WBSの中項目程度)で作り、細かい作業分解はWBS側に任せます。
③作って終わり——プロジェクト途中の体制変更が表に反映されず、実態と乖離します。フェーズの切り替わりで見直す運用をセットにします。④兼務の見落とし——同じ人がRを5個も持つ表は、その人がボトルネックになる予告です。個人単位でRの数を数え、偏りを均します。
RASCI・DACIとの違いは?
RACIには派生形があります。RASCIは、S(Supportive=実行を支援する人)を加えた5役割版で、主担当と補助メンバーを区別したいときに使います。DACIは、D(Driver=推進者)・A(Approver=承認者)・C(Contributor=貢献者)・I(Informed)の構成で、タスクの実行管理よりも「意思決定」の場面に特化したフレームワークです。
使い分けの目安は、通常のプロジェクトの役割分担ならRACIで十分、実行部隊が多層のときだけRASCI、投資判断など決定プロセスそのものを設計するならDACI、です。派生形を使うかどうかより、「最終責任者を1人に決める」という共通の原則が守られているかが重要です。