SaaSの更新フォーキャスト(Renewal Forecast)の作り方|確度の決め方と月次運用
契約更新の予測は、営業のヨミ表と同じ「確度加重」で作るのが基本形です。 顧客ごとに(現在の契約額+増減見込み)×更新確度を計算して合計すれば、既存売上の現実的な見込みになります。この記事では、確度の決め方・増額(Expansion)の織り込み方・月次運用のルールまでを解説します。手を動かす場合は契約更新ヨミ表ツールでこの記事の方法をそのまま実行できます。
なぜ「更新率の実績」だけでは足りないのか
多くのチームはNRR・GRRの実績は計算していても、「来四半期の更新がどうなりそうか」は担当者の感覚に任されています。実績は過去の成績表であり、予測がなければ、期末に「思ったより解約が多かった」と事後報告するしかありません。
更新フォーキャストの価値は、まだ間に合ううちにリスクが金額で見えることです。「リスクあり以下が3社・1,400万円」と分かれば、テコ入れの優先順位と投資判断(その1,400万円を守るためにいくら使えるか)の議論ができます。
更新確度4段階の定義
予測の精度は確度の定義で決まります。担当者の楽観・悲観でぶれないよう、行動の事実で定義を固定します。
| 区分 | 確度 | 定義(行動の事実) |
|---|---|---|
| 安泰 | 90% | 更新の意思を先方の言葉で確認済み。手続きを残すのみ |
| おそらく更新 | 70% | 利用は定着しているが、更新の確認はまだしていない |
| リスクあり | 40% | 利用低下・担当者交代・不満の表明など、懸念シグナルがある |
| 危険 | 15% | 解約・他社切り替えの話が出ている |
運用のコツは2つです。第一に、「連絡が取れていないだけの顧客」を安泰に入れないこと。実態が分からない顧客はリスクありに置き、確認できたら上げます。安全側に倒すことで、期末の下振れを防げます。第二に、四半期ごとに「安泰の何%が実際に更新したか」を集計し、確度の数字自体を自社の実績に補正することです。
増額(Expansion)・減額はどう織り込む?
更新タイミングはアップセル・クロスセルの最大の機会でもあります。予測には「更新時の新しい契約額」を使い、増減があれば織り込みます。
ルールは1つ——合意・提案済みの金額だけを入れることです。「言えば増えてくれるかも」という希望的な金額は予測を壊します。増額提案がまだなら現在の契約額のまま入れ、提案して手応えを得た段階で織り込みます。
計算式は次のとおりです。
- 更新後の予測売上 = Σ(現在の契約額 + 増減額) × 更新確度
- 予測GRR = Σ(現在の契約額 × 更新確度) ÷ 契約額合計(増額は含めない=守りの指標)
- 予測NRR = 更新後の予測売上 ÷ 契約額合計(増減込み=攻守合計)
MRR・ARRの内訳管理と組み合わせると、「予測したNRR」と「実績のNRR」を毎月突き合わせて予測精度そのものを改善できます。
月次運用: 90日前レビューのサイクル
| タイミング | やること |
|---|---|
| 更新120〜90日前 | 確度の初期評価。リスクあり以下はテコ入れ計画を作る(利用促進・上位者接点・プラン見直し) |
| 90〜30日前 | テコ入れの実行と確度の更新。増額提案はこの期間に。危険顧客は撤退ライン(値引きの上限等)も決める |
| 30日前〜更新日 | 更新手続き。ここで初めてリスクが発覚した場合は「なぜ90日前に検知できなかったか」を仕組みに戻す |
| 更新後 | 予測と実績の突き合わせ。確度定義の補正と、解約理由の記録 |
月次の定例では、契約更新ヨミ表を更新して「予測売上・予測GRR/NRR・リスク顧客リスト」の3点を報告するだけで、既存売上パートの報告が完成します。新規パイプラインのヨミと合わせた月次レビューの全体の流れはSaaSの月次レベニューレビューのフローにまとめてあります。
よくある失敗
- 全顧客を安泰にする: 予測が常に楽観に振れ、期末に必ず下振れする。「確認していない=リスクあり」の原則で防ぐ
- 確度を年1回しか見直さない: 利用状況は月単位で変わる。少なくとも更新90日前と30日前の2回は必ず見直す
- 増額を希望で盛る: 予測NRRが実力より高く出て、成長投資の判断を誤る。合意ベースの原則を守る
- 解約理由を記録しない: 同じ理由の解約が繰り返される。危険・解約になった顧客の理由は必ず一言残し、四半期でまとめて振り返る
まとめ
- 更新予測は(契約額+増減)×更新確度の確度加重で作る。営業のヨミ表の既存契約版
- 確度は行動の事実で4段階に定義し、実績で補正する。不明な顧客は安全側(リスクあり)へ
- 増額は合意・提案済みのみ織り込む。予測GRRで守り、予測NRRで攻守全体を語る
- 運用の軸は更新90日前レビュー。リスクが金額で見えれば、間に合ううちに手が打てる
リスク顧客への具体的なテコ入れは解約率の改善フロー、CS体制の立ち上げ全体はカスタマーサクセスの始め方を参照してください。
よくある質問
Renewal Forecast(更新フォーキャスト)とは何ですか?
既存顧客の契約更新を「顧客ごとの更新確度で加重して」予測する管理手法です。営業の新規案件のヨミ表と同じ考え方を既存契約に当てはめたもので、(契約額+増減見込み)×更新確度の合計が既存売上の現実的な見込みになります。
更新確度はどうやって決めればいいですか?
気分ではなく行動の事実で決めます。目安は、安泰90%(更新意思を先方の言葉で確認済み)、おそらく更新70%(利用は定着、確認はこれから)、リスクあり40%(利用低下・担当交代などの懸念シグナル)、危険15%(解約の話が出ている)の4段階です。連絡が取れていないだけの顧客を安泰に入れないのがコツです。
更新の何日前から動くべきですか?
更新日の90日前が実務の目安です。90日あればリスク顧客への利用促進・プラン見直し・上位者への働きかけといったテコ入れが間に合います。更新1ヶ月前に初めて確度を見るのでは、打てる手がほぼ残っていません。
GRRとNRRの予測はどう使い分けますか?
GRR予測(増額を含めない)は「守り」の実力で、100%が上限です。NRR予測(増額・減額込み)は既存顧客からの売上全体の見通しで、100%を超えていれば既存だけで成長できる状態です。経営報告ではGRRで守りの健全性を、NRRで成長性を説明します。